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2019年06月の日記
2019年6月3日(月)

 『インタレスト』27号も無事発刊され、我が編集部は先々週あたりからもう28号の企画会議に突入している。授業だから休みなしである。

 企画会議は最初に履修学生30人くらいが1人1本以上の特集企画案を持ち寄り、合計数十本出てくる有象無象の企画案をみんなで絞り込んでいくのであるが、前回の企画会議で「香川の鳥居を徹底的に集める」という案を出した齋藤と湊に「どうやってその企画案をひねり出したんや」と聞いたら、「二人でカラオケに行って『水戸黄門』を歌いよったら画面に鳥居が出てきて、これ、いけるんちゃうか? ということで…」という返事が返ってきたので、私は「えらいっ! カラオケ中でもインタレストの企画のことが頭にあるというのは、できるビジネスマンの世界に片足入っとる! 父ちゃんはうれしくて涙が出るぞ!」と褒めてやったのである。もちろん、「若い男2人がカラオケで水戸黄門かよ」というツッコミもちゃんと入れておいたのだが、そうやってみんなだんだん「ビジネス脳」が芽生えてきているのがなによりである。

 その「企画案持ち寄り会議」に、2年ぐらい前から「ふるさと納税の返礼品を調べたらどうでしょう」という案が何度か学生から上がってきた。それに「返礼品の何を調べてどう見せるんや」と突っ込んで行くと、「返礼品の全リストを作って、それをもとに何かの切り口でデータ化したりランキング化してみる」とか、「すごい返礼品、面白い返礼品、変な返礼品を紹介する」、「何かでアンケートを採って人気ランキングを作る」…等々の展開案が出てきたので、私はみんなと一緒に「ふるさと納税」の制度の原点から整理をしてみたのである。

 まず、「ふるさと納税の理念」は総務省のホームページに書いてある。再掲すると、こういう内容である。

***

 ふるさと納税制度は、「生まれ育ったふるさとに貢献できる制度」、「自分の意思で応援したい自治体を選ぶことができる制度」として創設されました。自分の生まれ故郷に限らず、どの自治体にでもふるさと納税を行うことができますので、それぞれの自治体がホームページ等で公開している、ふるさと納税に対する考え方や、集まった寄附金の使い道等を見た上で、応援したい自治体を選んでください。

<ふるさと納税の理念>

ふるさと納税で日本を元気に!

 地方で生まれ育ち都会に出てきた方には、誰でもふるさとへ恩返ししたい想いがあるのではないでしょうか。育ててくれた、支えてくれた、一人前にしてくれた、ふるさとへ。都会で暮らすようになり、仕事に就き、納税し始めると、住んでいる自治体に納税することになります。税制を通じてふるさとへ貢献する仕組みができないか。そのような想いのもと、「ふるさと納税」は導入されました。

<3つの意義>

第一に、納税者が寄附先を選択する制度であり、選択するからこそ、その使われ方を考えるきっかけとなる制度であること。それは、税に対する意識が高まり、納税の大切さを自分ごととしてとらえる貴重な機会になります。
第二に、生まれ故郷はもちろん、お世話になった地域に、これから応援したい地域へも力になれる制度であること。それは、人を育て、自然を守る、地方の環境を育む支援になります。
第三に、自治体が国民に取組をアピールすることでふるさと納税を呼びかけ、自治体間の競争が進むこと。それは、選んでもらうに相応しい、地域のあり方をあらためて考えるきっかけへとつながります。

 さらに、納税者と自治体が、お互いの成長を高める新しい関係を築いていくこと。自治体は納税者の「志」に応えられる施策の向上を。一方で、納税者は地方行政への関心と参加意識を高める。いわば、自治体と納税者の両者が共に高め合う関係です。一人ひとりの貢献が地方を変え、そしてより良い未来をつくる。全国の様々な地域に活力が生まれることを期待しています。

***

 読んでてもちっとも面白くない文章ではあるが(笑)、これが一応「ふるさと納税制度」の出発点ということになっている。「理念」だけがあって、具体的な「目的」や「達成目標」がないのは行政の施策の常であるが(そこがのちの混乱やトラブルの元だ)、まあ一応趣旨だけはわかる。つまり、この制度の主体となる「個人」と「自治体」の役割としては、

(1)「個人」は、(寄付という形で)納税の一部を「応援したい自治体」に振り分けることができる。
(2)「自治体」は、個人に対して自らの取り組みをアピールすることで、ふるさと納税を呼びかける。

の2点である。

 ところが、2008年に制度が始まったら、「自治体」は「自らの取り組みをアピールすることでふるさと納税を呼びかける」のではなく、「返礼品で客を釣る」という「理念にそぐわないこと」をやり始めた。すると、「個人」も「自治体への思いや自治体の取り組みに賛同して寄付先を選ぶ」のではなく、「返礼品を目当てに寄付先を選ぶ」という「理念にそぐわないこと」をやり始めた。そして、それがどんどんエスカレートしてきたので、これはまずいと思った総務省が自治体に対し、
・2017年…「返礼品調達額を寄付額の30%以下にする」という目安を通知。
・2018年…「返礼品は地場産品に限る」という指導を通知。さらに、「過度な返礼品を規制する法律を作る」ことを表明。
という制度の修正を繰り返したら、ご存じのように泉佐野市が返礼品にアマゾンのギフト券を贈る「100億円還元キャンペーン」をぶち上げるなどして反旗を翻し、賛否両論が飛び交う今日のドタバタにつながっているわけである。

 そこで、我々編集部は検討した。

田尾「つまり、制度の趣旨は、自治体が個人に対して寄付が集まるような取り組み(行政施策)をアピールし、個人はそれを見て自分の思いに沿った自治体へ寄付(ふるさと納税)するということのようである。すると、『インタレスト』で情報を集めるとすれば、正攻法は何だ?」
学生「全国の自治体の『寄付を募るための取り組み(行政施策)』を紹介する」
田尾「健全かつ原則に沿ったインタレストの企画としては、そうなるわな。じゃあ、この制度における返礼品というのは何だ?」
学生「制度の本来の趣旨を歪めているもののような気がしますが…」
田尾「ということは、我々が返礼品情報を集めて発信するというのは、理念にそぐわない活動を助長することになる」
学生「わかりました。返礼品紹介はやめましょう」

 という話になって、企画はボツになったのである。

***

 たぶん、そういうことだと思う。「ふるさと納税制度」というのは、本来の趣旨から言えば「返礼品」を出す必要などないのである。返礼品を付けなければ寄付が集まらないのなら、それは「自治体が、みんなが寄付したくなるような魅力的な施策を打ち出せていない」というだけの話である。そして、それを解消するための正攻法は「みんなが寄付で応援したくなるような魅力的な施策を打ち出す」ことである。すると、「返礼品」はどう考えても「ふるさと納税制度の趣旨を歪めてゴタゴタを起こす元凶」なのである。

 それなら、今のふるさと納税の返礼品を巡るゴタゴタを解消するには、「返礼品を禁止すればよい」ではないですか。返礼品を禁止すれば昨今の国と自治体の醜い争いもなくなるし、「魅力的な政策で競争する」という制度の本来の姿に戻るんだもの。

 ちなみに、この騒動の中で「税収の地域格差是正のために、ふるさと納税制度を縮小させるような規制強化はよくない」という主張を耳にしたが、税収の地域格差是正は「地方交付税交付金」でやればよいのである。百歩譲って「地方交付税交付金では個人の意志が反映されない」というなら、現行の「ふるさと納税制度」を返礼品なしでやればよいのである。それで「ふるさと納税」をする人が激減するのなら、それだけの効果しかない施策だったということである。それなら、「返礼品」などという本来の趣旨を歪めるような姑息な手段を持ち出すのではなく、正直にあるがままの結果をもとに判断して制度をやめる方がずっと健全だと思う。

 蛇足ながら、H29年度の寄付総額は約3653億円とあったが、H29年度の税収総額は約100兆円(うち、国税が約60%)ある。金額ベースだけで言えば、ふるさと納税はそのうちの約0.3%がどこかの自治体からどこかの自治体に移動しただけである。そんなお金の醜い奪い合いに現を抜かす暇があったら、税収が減った自治体も増えた自治体も、無駄に膨れ上がって借金だらけの行政を健全化し、本来の行政の役割を洗い直すことに専念すべきである。
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